お酒×料理のおいしいペアリング~覚えておくと おいしさ倍増!ペアリングの基本の考え方~
教えてくれたのは…株式会社味香り戦略研究所 主席研究員 髙橋 貴洋 さん
ペアリングとは、食材を組み合わせてさらなる美味しさを求めること。私たちが実際にペアリングを楽しむためのヒントを味香り戦略研究所主席研究員 髙橋 貴洋さんに教えてもらいました。
おいしいペアリングのために
マグロのお刺身と日本酒のペアリングについて例に取ってみましょう。この組み合わせはなぜおいしい気がするのでしょうか? それっぽく言うと日本酒のアミノ酸や有機酸やある種の香気成分が魚の生臭さを抑えてくれたり、日本酒のアミノ酸系のうま味とマグロの核酸系のうま味が相乗効果を起こしてくれるから、というのが建前です。
マグロの種類や部位・釣り上げた季節・保存状態・切り方……、日本酒の銘柄や酒米、酵母、仕込み水、冷・燗なども考慮していく必要があるでしょう。普通の人にはちょっと難しいですね(笑)。これはプロにまかせましょう。ではもう少し簡単にペアリングできるコツをご紹介します。
本能を知る ~味覚の同調~
まずは味のバランスを考えましょう。味覚には5味(甘味・うま味・塩味・苦味・酸味)があります。渋み・辛みは厳密には味覚ではないですが、今回は入れて考えてみます。
甘味・うま味・塩味は先天的に人間が好む味わいで、苦味・酸味・渋み・辛みは先天的に嫌い、後天的に経験して食べられるようになります。つまりこれらの味のバランスを考えるのがペアリングの第一歩です。でもこれらは「本能」ですから知らずにやっていることが多いです。
味覚の同調のペアリング例
● 料理と酒の「苦味または酸味を同程度」にする。
例:サンマや鮎の苦味より強い苦味のビールだと素材がわからなくなったり、苦味の許容度を超える。
● 甘味、うま味は「ヒトが嫌う味:苦味、酸味、渋み、辛みの調整・緩衝役」として考える。
例:「肉・魚・チーズ(うま味)」と「ビール(苦味・酸味)やレモンサワー(酸味)やワイン(渋み・酸味)」
甘味の少ない果実や柑橘類(酸味・苦味)にフルーツ系リキュール(甘味)をかける
● 塩味は味の相互作用や強調を担うことが多く、好みで足せるようにしておくといい。
例:塩味は苦味を抑制する→ビールに塩辛いもの、ソルティ・ドッグのスノースタイル(グレープフルーツ果汁+ウォッカ、グラスの縁に塩)
例:程よい塩味はうま味・甘味を強く感じさせる→日本酒(甘味・うま味)に塩をつまみとして、ブラッディ・マリー(トマトジュース(うま味)+ウォッカ)に塩胡椒やタバスコ
においを探し出す能力 ~においの同調~
においも重要です。簡単なにおいの相性のよさの傾向として、「似ているもの同士のにおいは相性がよい」です。この単純な法則を使うには“モノ”にどんなにおいを感じるかを例えなくてはいけません。これが結構難しいのです。ソムリエはワインをブドウのにおいとは例えません。違うものに例えるのがお仕事です。熟した赤い果実、さわやかな草原、湿った小石、子犬が濡れたにおい……など。これは想像できればできるほどセンスがあります。最近は便利なにおいの相性予測のできるFOODPAIRING®というサイト(英語サイト)もありますので使ってみるのもよいでしょう。
においの同調のペアリング例
例:大吟醸またはフルーツリキュール(ライチやピーチ)とフルーツ
例:発酵食品と発酵食品が合わせやすい。→パンとワイン(双方ともイースト菌が
共通し香気成分が似るものもある)、漬物とチーズ(硫黄系・酸臭などの同調)
例:黒胡椒は実は柑橘系の香気成分→柚子、レモン果皮などの代わりに
身近なものが先生 ~分解・再構築~
例えばイチゴのショートケーキを分解すると「イチゴ」と「生クリーム」と「スポンジ」になります。これをバラバラに食べたらペアリングです。つまり「料理はすでに相性のいいもので構成されている」ので、これを参考に分解して考えると簡単です。
ではこれを再構築すると「いちごをジュース」にして「クリーム入りのロールケーキ」を提供したらペアリングの完成です。単純すぎて芸がない? そういった方は「トマトにザラメをつけて」食べてみましょう。いちごのようなものができます。プリンに醤油でウニになるという驚きの食べ合わせも好事例の一つですね。ぜひどんな味わいや香りが「イチゴ」や「ウニ」などを構成しているのか、分解して考えてみてください。
このように分解と再構築してカクテルをつくる「ミクソロジーカクテル」という分野の技法としても最近ではお店で楽しめます。
そもそもペアリングとは?
2つを合わせそこにx何かを見出すzのがペアリングです。xおいしさzを求めるのが普通でしょうが、100人いたら全員にウケる100%のペアリングは存在しません。おいしさとは個人の食経験や体調、食の楽しさ・興味の追求、はたまたその日はダイエット中だったり……様々な要因で構成されています。おいしさの多様性を理解し、それを考慮しつつ、提供側も食べる側も笑顔になれるのが真のペアリングなのではないでしょうか。